(1)年齢というのは、相手を理解する上での重要なキーワードだと、わたしは思っている。同じく、自分を理解してもらう上での重要なキーワードでもある。
「同じ世代だったんですね。じゃあ、あれ、ご存じでしょ?」
ということもあれば、
「へえ、十歳違うと、やっぱり考え方が異なってくるものですねえ」
ということもあるだろう。
それにわたしは、自分の年齢を恥じたりしていない。若くして亡くなる人もいるというのに、わたしはいま現在で半世紀もの年月を生きることができた。いやなこともいいこともいっぱいあったが、そのどれもが、かけがえのない私の人生、一年たりとも否定したりごまかしたりしたくはない。
しかし、かなりの文化人ではあっても、女性の中には年齢を公にしたがらない方がけっこういらっしゃるようだ。あるシンポジウムに参加した時、パンフレットのパネラー紹介で、わたしのところだけ年齢がなかった。他のパネラーは男性で、全員、ちゃんと年齢が記されている。どうしてでしょうと問い合わせると、女性の方は年齢を入れないでほしいとおっしゃる方が多いので、と言われた。つまり、勝手に気遣って、わたしだけ年齢を伏せてくださったというわけだ。よけいなお世話である。ひとこと、どうしますかと尋ねてほしかったのにと、かえって腹がたった。
【問1】 「重要なキーワードだ」とあるが、なぜキーワードなのか。
1 お互いを理解するのに重要な手掛かりになるから。
2 自己紹介の時に言わなければならない事柄だから。
3 見かけにだまされないようにするのに重要だから。
4 年齢が違えば話し方を変えなければいけないから。
【問2】 「自分の年齢を恥じたりしていない」とあるが、なぜ恥じたりしないのか。
1 これからも長生きをする自信があるから。
2 今までの人生は自分にとって貴重だから。
3 いやなことをたくさん解決してきたから。
4 本当の年齢よりももっと若く見られるから。
【問3】 「女性の方は年齢を入れないでほしいとおっしゃる方が多いので、と言われた」とあるが、だれに言われたのか。
1 パネラーの男性
2 文化人の女性
3 シンポジウムの主催者
4 シンポジウムの参加者
【問4】 「かえって腹がたった」とあるが、なぜ腹がたったのか。
1 年齢を書かれたくなかったのに、書かれてしまったから。
2 パネラーは自分だけが女性で他の人は皆男性だったから。
3 文化人であっても年齢を公にしたがらない女性が多いから。
4 相手が、筆者も年齢を書かれたくないだろうと考えたから。
(2)「ごちそう」は、もともと「馳走」という漢語から出た言葉です。「馳走」は「走りまわる」「かけめぐる」という意味ですが、つまり、食事を作るために、その材料を集めるのに、あるいは煮たり焼いたりするのに、身体を忙しく動かさなければならず、その労苦へのねぎらいと感謝から発せられる「あいさつ」のことばで、「ご苦労様でした」「お疲れ様でした」「お造作をかけました」「ありがとうございました」といったニュアンスのことばであるわけです。
だから、なにも料理にかぎったことではなく、たとえばとなりの家へもらい風呂に行ったとき、風呂に入った帰りがけに、
「ごちそうさまでした」
というむかしは、今でもつかわれる場合があるのではないかと思います。
ことにむかしは、風呂ひとつたてるにしても、風呂おけに水を汲み入れ、たきぎを集まり、つきっきりで火を燃やしたり、大変な労働をともなう仕事であったわけですから、なおさら、「ごちそうさまでした」というあいさつがつかわれても、少しも変ではなく、また、そこにこめられた気持ちには深いものがあったといえるでしょう。
(中略)
「ごちそうさま」は、料理そのものより、むしろ人間の心に向けて発せられる「あいさつ」なのです。
ついでにいうと、料理屋で食事をしての帰りに、店の人に、
「ごちそうさま」
という人がいますが、わたしはそれはあまりそぐわないと思っていて、つかいません。
「お世話さま」
というのをつかいます。
もらい風呂をして、「ごちそうさまでした」といっても、お風呂屋さんでは、そうはいわない。お風呂屋さんも料理屋さんも、それが商売であり、そこで、「ごちそうさま」というのは、度をすぎたお世辞になり、いやらしいと感じるのです。「あいさつ」のことばにも、それをつかう場合の節度があるべきだと思います。
【問1】 となりの家へもらい風呂に行った後で、「ごちそうさまでした」と言うのはなぜか。
1 風呂に入ると食事をしたときと同様にいい気持ちになるから。
2 風呂をたてた人の労働に感謝の気持ちを表す言い方だから。
3 むかしは、もらい風呂の後で夕食もごちそうになったから。
4 むかしは、「さようなら」のあいさつとしても使われたから。
【問2】 「つかいません」とあるが、筆者が料理屋で「ごちそうさま」を使わないのはなぜか。
1 商売をしている人が忙しく動くことは当たり前で、必要以上の感謝の気持ちは適当ではないから。
2 お金を払っているのに、あまりおいしいとはいえない料理が出てくる場合が多いから。
3 「ごちそうさま」は「お世話さま」